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水戸地方裁判所 平成6年(わ)685号 判決

本籍

茨城県龍ケ崎市四三四一番地

住居

右同

会社役員

高野良一

昭和一七年三月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官岩城洋及び弁護人森徹各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月、罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、人材派遣業等を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上を除外するなどの行為により、その所得を秘匿した上、

第一  平成二年分の実際総所得金額が七五七七万六四七三円であったのにかかわらず、平成三年三月一五日、茨城県龍ケ崎市川原代町一一八二番地の五所轄竜ケ崎税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が一四〇九万七七五二円で、これに対する所得税額が三〇八万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額三三一七万六五〇〇円と右申告税額との差額三〇〇八万六九〇〇円を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が九三七一万一六九八円であったのにかかわらず、平成四年三月一六日、前記竜ケ崎税務署において、同税務署長に対し同三年分の総所得金額が一三五六万四八五六円で、これに対する所得税額が二八六万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二一三万四〇〇〇円と右申告税額との差額三九二六万五六〇〇円を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が九一五八万八九六五円であったのにかかわらず、平成五年三月一五日、前記竜ケ崎税務署において、同税務署長に対し同四年分の総所得金額が一七八五万九六三三円で、これに対する所得税額が四八九万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四一二八万七五〇〇円と右申告税額との差額三六三八万九一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  竜ケ崎税務署長作成の各捜査関係事項照会回答書

一  谷北緋佐子の検察官に対する供述調書

一  宮本久雄、原田武雄、原田勝也の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官菅野悟作成の売上調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、保険料調査書、修繕費調査書、消耗品調査書、器具備品費調査書、事務用品費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、地代家賃調査書、リース料調査書、賄費調査書、支払手数料調査書、雑費調査書、青色申告控除額調査書、一時所得調査書

一  大蔵事務官三谷孝之作成の減価償却費調査書、営業権償却費調査書、雑所得調査書、その他所得調査書

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、なお罰金刑については同条二項による金額の範囲内とし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に、罰金刑については同法四八条二項により、それぞれ法定の加重した刑期及び合算した金額の範囲内で被告人を懲役一年二月、罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、人材派遣業等を営んでいた被告人が、平成二年分から三年間にわたって売上を除外するなどの不正の行為により所得税を免れたという事案である。被告人のほ脱額は合計一億円を超え、ほ脱率も九〇パーセントを超えるなど、ほ脱額が多額で、ほ脱率も高率であり、国家財政の支えとなる租税を高ほ脱率で多額の脱税をした被告人の行為は、強い非難を受けるべき行為であり厳しく処罰されなければならない。

しかしながら、本件各犯行の大部分は一営業所における売上及び経費の全てを申告しなかったことに起因する犯行であり、帳簿への記帳などはほぼ正確になされており帳簿操作、改ざん、隠匿、破棄は支払給与を一部架空に計上した以外は行われていないこと、右支払給与の架空計上も本件脱税には意味をなしていないこと、売上除外のみならず経費も計上していないことなどの犯行態様からすれば、単純な申告の懈怠に近いものであり、また、仮名の預金口座および仮名の株式口座の存在は認められるものの、これらの所得の隠匿のために作られたと認めることはできず、右事実からすると犯情はそれほど悪質なものではない。そして、被告人は本件犯行発覚後修正申告をして不足税額を支払っていること、重加算税についても支払う予定であると述べていること、前科はあるものの、いずれも古いもので、同種前科はなく、平成五年分以降は真面目に納税しておることなどの情状も考慮し、主文の刑に処し、懲役刑については三年間刑の執行を猶予することとした。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 駒井雅之)

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